2017年5月23日火曜日

UMC ICU実習

こんにちは。ラスベガスにあるUMC(University Medical Center)で実習をしているyokoです。実習期間の半分以上を過ぎての初投稿になります。

今日は4月にローテートしたICUでの実習について紹介したいと思います。

1.      CAT 3という制度について
UMCでは患者さんの最後の迎え方について、CAT 1-3まで3種類の分類があります。CAT 1はいわゆるフルコースで、胸骨圧迫から挿管からすべての救命処置を全力で行うものです。これは日本でも一般に行われていることだと思います。CAT 2は基本方針として急変時は救命処置をしないものとなっています。ただしいろいろと選択の幅があり、抜管後の再挿管はしないとか、コードブルー(院内放送でのドクターコール)をコールしないとか、抗菌薬を使用しないなど様々な選択肢があります。選択肢の幅は日本よりも多様だと思いますが、これもまた日本で一般的になりつつあることだと思います。医科歯科でもたまにカルテにDNRと赤字で書いてあることがありました。CAT 3ICUにおいてはほぼそのまま安楽死を意味し、CAT 3 になった時点で鎮痛と鎮静以外の全ての治療を止めます。ICUCAT 3になる人は挿管されている患者さんがほとんどですが、CAT 3になった時点で抜管し、抗菌薬も昇圧薬も止めます。Aラインなども抜いてしまうので、最後は心電図とサチュレーションと鎮痛・鎮静のためのラインだけがつながれている状態になります。これは私が大変驚いた点で、日本では明確な基準はないものの、一度挿管された患者さんに対して緩和目的に抜管を行うことは一般に行われないことですし、昇圧薬もすべて止めてしまうと確実にすぐ亡くなってしまいます。こちらの学生や医師は「挿管されたまま、意識もないのに何か月も生きていることは、患者本人にとっても家族にとっても医療者にとっても苦痛なことだ」と言っていましたし、「多くの症例を見てきて、この状態だと最後は苦しんで死ぬことが多いから、それよりは安らかに最期を迎えてほしい」と言っている先生もいました。確かに苦しんで生きるより安らかに死ぬことを選ぶ気持ちもわかりますが、日本人の感覚とは少し違うようです。また、家族のいない患者さんの場合、2人の医師の署名でCAT 3にすることができると聞き、それはさすがにやりすぎではないかと思いました。ちなみに、日本でも問題になる積極的安楽死に関してはまだ数州でしか認められておらず、こちらはKCLの静注など、明らかに患者を死亡させる目的で何らかの医療行為を行うことを指すようです。
日本でも今後CAT 3という選択肢に関して議論になると思いますし、今現在そのようなことができないからと言って、考えることを放棄せず、考え続けていくことが大切だと感じました。

2.      専門化された医療現場
アメリカではICUに限らず、多くの職業が専門化されています。医師は診断と治療に特化し、心電図・末梢ライン・その他看護的処置などを行うことができません。資格的にはできますが、やり方を知らないようです。また挿管もER以外だとフェロークラスにならないとできないようです。その分自分の専門分野に関しては知識も手技も日本の研修医/医師よりも詳しく知っていることが多く、特に研修医にその傾向を感じました。研修医は研修医になる段階である程度自分の専門を決めているので、その専門と関連のある診療科しか回りません。その分ローテートしている診療科では一人の医師として自立した診療を行っています。つまり、自分で患者の問診等を行い、アセスメントとプランも基本的に自分ひとりで考えます。それを回診の時などにアテンディングに報告し、さらに追加で行うことやちょっとした変更がなされます。そのため研修医と言えど責任が重大で、日本の後期レジデントのような働きをしています。学生でさえもある程度自分の専門は決めているので、その豊富な知識に驚かされました。
一方で細分化されるデメリットもあり、コミュニケーションがうまくいかないとチームとしてうまく回っていかないようです。私が聞いた話では、respiratory therapistと医師の仲が悪くて患者さんの呼吸器の設定に関して揉めたり、ナースと医師の仲の悪さから些細なことが大きな問題になることがあるようです。日本でも細分化が随分と進んでいると聞きますが、アメリカではより進んでいるため、アメリカの現状を参考にしながらチーム医療の在り方を考える必要がありそうです。

3.      疾患の違いについて
こちらのICUでよく見た疾患のNo.1は敗血症です。日本ではよくDICを見たように思いますが、こちらでは逆にDICが少なく、敗血症がとても多いです。日々の検査に凝固系の検査が含まれていないことが一因だと思います。敗血症に関しては診断基準がはっきりとしていて、意外と簡単にその診断基準を満たしてしまいます。ERICUの医師はその診断基準が書かれたカードを常に携帯していて、目の前の患者さんがその基準を満たすかどうかを常にチェックしているようです。このように多くの症例をすくい上げようとしているので症例が増えているという点がある一方で、他の要因としては、アメリカの患者さんは重症化してからERに来ることが多いということも挙げられます。やはり経済的な問題もあり、なかなか軽症では病院に来たがらないようです。オバマケアによるメディケア・メディケイドも日本の保険制度のように自由に無制限に使えるものではないようですし、ちょっとしたことでERに行って高いお金を払って何時間も待ってまで医療を受けることはしたくないのだと思います。

4.      行われている医療について

日本にいるときはアメリカの方がEBMがしっかりしているという印象でしたが、そこまで日米の違いはないように思いました。というより日本もアメリカに負けないくらいEBMを行っています。また、アテンディングが1週間で変わるため、アテンディングごとの方針の違いにレジデントが戸惑う場面もあったと思います。ただどのアテンディングでも、日本のように高い薬でエビデンスが乏しくてもとりあえず使ってみるというようなことはなかったと思います。そのほかにもCTや手術など、侵襲的で危険を伴うような処置に対するハードルが高く、そのような状態だとCAT 3 も視野に入れているためかあまり積極的に治療しに行かないように感じました。もちろん救える人に対しては全力で治療しますが、救えなさそうだと判断されるとCAT 1でもその判断は消極的になりがちだと思います。

ICUという場所ゆえに、この1か月で多くの患者さんが亡くなるところを見てきました。患者さんが回復してきている場面ではあまり日米の違いを感じませんでしたが、患者さんの状態が重篤な際の医療に関しては日本人とアメリカ人の死生観の違いを大いに感じました。

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